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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)4134号 判決

原告

松岡源市

ほか九名

被告

日宝陸送株式会社

主文

(1)  被告は、原告松岡源市、同小林藤枝、同田村ナミヱに対し各金九万三、〇二七円ずつおよび内金八万三、〇二七円ずつに対する、原告長沢広、同長沢孝、同長沢勲、同長沢晃、同長沢衛、同長沢芙美代、同長沢郁代に対し各金一万六、八六〇円ずつおよび内金一万一、八六〇円に対する、いずれも昭和四五年五月一〇日より各支払済み迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2)  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

(4)  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は、原告松岡源市、同小林藤枝、同田村ナミヱに対し、各金一三二万円ずつ、および内金一一二万円ずつに対する、原告長沢広、同長沢孝、同長沢勲、同長沢晃、同長沢衛、同長沢芙美代、同長沢郁代に対し、各金一九万円ずつ、および内金一六万円ずつに対する、それぞれ昭和四五年五月一〇日より各完済迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

訴外亡松岡岩雄(以下亡岩雄という)は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四三年六月二八日午前〇時三五分頃

(二)  発生地 神戸市生田区加納町六丁目一五番地

(三)  加害車 大型クレーン車(臨時ナンバー相模八、一九九号)

運転者 訴外西村秀峰(以下訴外西村という)

(四)  被害者 訴外亡岩雄(道路横断歩行中)

(五)  熊様 道路横断歩行中の亡岩雄を加害車が轢過したもの。

(六)  被害者である訴外亡岩雄は本件事故により受けた頸髄断裂が原因となつて前同日午前〇時四六分死亡した。

二  (責任原因)

被告は、次の理由により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(一)  被告日宝陸送株式会社は、自動車等の輸送を業とするものであるところ、訴外多田野鉄工株式会社より、加害車を高松市より東京都内迄いわゆる陸送することを請負い、従業員である訴外西村をして、これに当らせ、加害車を輸送中、本件事故を発生するに至つたのであるから、本件事故発生時加害車を自己のため運行の用に供していたものとして、自賠法三条による責任を負う。

(二)  仮りに、本件事故について被告に運行供用者責任がないとしても、被告は本件事故後である昭和四三年八月一三日、原告らに対し、本件事故に関し、損害賠償義務を負う旨意思表示しているので、右債務承認行為の故に、本件事故について損害賠償責任を負う。

三  (損害)

(一)  葬儀費等

原告らは、訴外亡岩雄の事故死に伴い、葬儀をとり行ないそれに伴ない金二〇万円の出捐を余義なくされこれをそれぞれ、各人の相続分に応じ負担した。

(二)  被害者に生じた損害

(1) 訴外亡岩雄が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり金七二八万円と算定される。

(死亡時)満四五歳

(稼働可能年数)一五年間

(収益)訴外神港作業株式会社に作業員として勤務し、月平均七万二、五〇〇円の給与を取得。

(控除すべき生活費)一カ月当り金一万七、一一〇円

(毎年の純利益)金六六万四、六八〇円

(年五分の中間利息控除)ホフマン複式(年別)計算による。

(2) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告源市、同藤枝、同ナミヱはその兄、姉、妹としてその余の原告らは、いずれも亡岩雄の姉である訴外亡長沢ツルヱの代襲相続人として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、

原告源市、同藤枝、同ナミヱにおいてそれぞれ各金一八二万円ずつ、

その余の原告らにおいて各金二六万円ずつである。

(三)  損害の填補

原告らは本件事故につき、既に本訴提起前自賠責保険金三〇〇万円の支払いを受け、これを、各原告の相続分に応じ受領し、それぞれ損害金の内金に充当した。

(四)  弁護士費用

以上により、原告源市、同藤江、同ナミヱは各金一一二万円ずつ、その余の原告らは各金一六万円ずつ、およびこれらに対する各遅延損害金の支払を被告に対し請求しうるものであるところ、被告はその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを意任し、弁護士会所定の報酬範囲内で、原告源市、同藤枝、同ナミヱは金二〇万円ずつを、その余の原告らは、金三万円ずつを、手数料および報酬として第一審判決言渡日に支払うことを約した。

四  (結論)

よつて、被告に対し、原告源市、同藤枝、同ナミヱは各金一三二万円ずつ、およびこれらより各弁護士費用相当分を控除した内金一一二万円ずつに対する、その余の原告らは、各金一九万円ずつ、およびこれらより各弁護士費用相当分を控除した内金一六万円ずつに対する訴状送達の日の翌日である昭和四五年五月一〇日以後各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告の事実主張

一  (請求の原因に対する認否)

第一項中、訴外西村が加害者を、事故時に、事故発生地で運転していたこと、および訴外亡岩雄が頸髄断裂により原告主張の日時に死亡したこと、は認めるが、その余の事実は否認する。加害者は亡岩雄を轢過しておらず、本件事故は、加害車以外の車によつて惹き起されているものである。

第二項中、被告が自動車等の輸送を業とし、訴外多田野鉄工株式会社より加害車を高松市より東京都内迄いわゆる陸送することを請負い、従業員である訴外西村をしてこれに当らせ、加害車を輸送中であつたこと、従つて、本件事故発生時加害車を自己のため運行の用に供していたものであること、は認めるが、その余の点は否認する。

第三項中、岩雄が本件事故時満四五才であること、原告らが自賠責保険金三〇〇万円を受領したこと、は認めるが、その余の事実は不知。

なお、元来死亡事故において、死者の逸失利益の賠償を求めうるのは、右死者により扶養されていたものに限られるべきところ、原告らは、いずれもこれに当る者ではないから、本件逸失利益の賠償請求は失当である。

第四項争う。

二  (仮定抗弁)

(1)  (原告主張予備的責任原因に対する錯誤の抗弁)

被告は、本件事故による損害賠償の債務を承認するような意思を表示したことはないのであるが、仮に、そのように受取りうる挙動があつたとしても、それは訴外西村が本件事故の不法行為者と誤つてなしたものであり、右訴外人が本件事故を惹起したものでないことが判明した以上、これは意思表示の重要な部分に錯誤があつたことになるので、債務承認の意思表示は要素に錯誤があり、無効である。

(2)  (過失相殺の抗弁)

被害者である亡岩雄は、見透しよく、夜間でも照明が充分な、両側に歩道のある、幅員二〇・六五米のアスフアルト舗装道路を、横断するに当り、進行中の車などに対する注意を怠つていたものと考えられるのであり、かつ、右過失が本件事故発生に寄与していることは明らかであるから、仮りに被告に損害賠償責任があるとしても、賠償額算定にあたり、これを斟酌すべきである。

第五抗弁事実に対する原告らの認否

すべて否認する。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の発生と責任の帰属)

原告ら主張請求の原因第一項中、訴外西村が加害車を、事故時に、事故発生地で運転していたこと、および亡岩雄が頸髄断裂により原告主張の日時に死亡したことは当事者間に争いない。

そこで、本件事故が訴外西村運転の加害車により惹起されたものか否かについて検討することにする。

〔証拠略〕をあわせると、次のような事実を認めることができる。

(1)  (本件事故発生地点の地形)本件事故発生地点は、歩車道の区分のあるアスフアルト舗装の、東西に通じる、国道第二号線上にある。車道幅員は二〇・六五米で、中央部に約一米幅をもつて、斜めに白線が引かれてセンターラインが標示され、その上には、二・九米の間隔をもつて、縦〇・三米、横〇・二米、高さ〇・〇五米のラバーコーンが設置されている。右センターラインにより分たれている東・西行車道は、いずれも三車線と区分されているが、東行車道は、各三米間隔の三車線という構成となつている。路面にはそれほど顕著な高低差はないが、センターライン付近が若干高く、歩道に近づくにつれ、僅かに低くなつている。現場道路は西より東へ角度七〇度半径二五米の左カーブを描いているが、障害物その他見透しを妨げるものはなく、道路両側に約五〇米の間隔で水銀灯が設置されており、付近は比較的明るく見透しは良好であつた。事故発生地点は、国道第二号線に、北より南にはしる幅員四・九五米の舗装道路が、ほぼ直角に交差し、形成される交差点部分の大体最東端で、国道上のセンターライン北側より〇・六米のところに位置し、付近には横断歩道・歩道橋はない。

(2)  (事故時の現場の天候・交通量等)現場は、事故発生約一時間前より降りだした小雨のため、路面は湿潤状態となつていた。また交通量は、昼間は極めて多いが、本件事故発生時のような深夜では、減少し、通行の車は殆んどが貨物自動車となり、一時間で約五〇〇台の通行程度となる。

(3)  (加害車の事故時点直後の状況)加害車は陸送中(この点は当事者間に争いない)の殆んど新車と称して差支えない車であるが、事故当日午後九時頃行つた検査では右前輪タイヤの接地面中央より内側の紋様凹部ならびに右前輪フエンダー後部に取付のゴム製泥除け板中の二箇所に、いずれも顕著なルミノール反応があり、またロイコ・マラカイトグリン試験にも陽性の結果を示したが、その他の部分では、左前輪にルミノール反応らしきもの、左右後輪および車体下部にルミノール反応類似のものが弱く示された程度であり、しかも、右各反応部分にロイコ・マラカイトグリン試験をなした結果では、いずれも陰性の結果を示した。

(4)  (被害者の状況)亡岩雄は、車に轢過され、事故地点路上に転倒していたのであるが、口より出血し、胸部に対する衝撃が著るしく一見して生命にかかわる重傷と判明する状態となつていたのであり、本件事故による頸髄断裂が死因(右死因については当事者間に争いない)となつて死亡するに至つている。

(5)  (訴外西村の事故後の挙動)訴外西村は、亡岩雄を、折柄通りかかつた貨物自動車運転手らと共に、路面より抱き起し、救護につとめたのであるが、亡岩雄を、通行中のタクシーが乗車させ、右タクシー運転手が、訴外西村らにも乗車するよう促したのに対し、前示貨物自動車運転手らが、事故当事者でない旨言いおいて現場を離れたのに対し、訴外西村はこれを明白に否定せず、加害車を路傍に寄せたうえ、乗車する趣旨の発言をしている。

以上のような事実が認められ、右認定に反する証人西村秀峰の証言の一部、〔証拠略〕と対比すると、事実を正確に反映しているものとはいい難く、その他右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実を綜合すると、亡岩雄は訴外西村運転の加害車により轢過され、死亡するに至つたものと判断することができる。

即ち、

(イ)  〔証拠略〕によると、訴外西村は、事故直後においても、亡岩雄を轢過したのは、幌付の大型貨物自動車(以下幌付車という)であつて、加害車は、ただ前方停車中の右幌付車とその後車輪後方に倒れている亡岩雄を認め、故障車の修理と考えつつ、斜めに停車し、東行車線をほぼ一杯にふさいでいる幌付車を避け、センターラインをこえ、対向車線に入つて追越し、再び東行車線に入つたところを呼びとめられた様に思い、修理のため、クレーン車である自車を必要とするものと考え、加害車を停車させたところ、その右側を幌付貨物自動車が追い抜いて行き、下車した訴外西村は、事故現場にうつぶせに倒れている亡岩雄を発見するに至つた旨弁明し、この弁明は、その後、後方より呼びとめられたことをより明確に、加害者停車時の追い抜き車の車種をやや曖昧にするものの、ほぼ一貫して述べ続けていることが認められるが、右弁明は、前認定現場照明状況よりすると、弁明どおり亡岩雄が、斜め停車の後車輪付近にうつぶせに倒れていることとすると、うつぶせの状態から、容易に故障の修理できないことが判明しえたであろうに、事故と思わなかつたこと、あるいは、自車を呼びとめたと考えるべきはずの幌付車と同種の車が、停車した加害車の右側を追い抜いて行つたとすると、当然これを呼びとめて、尋す手段にでるであろうに、これに注意を払つた様子が殆んどない、などの不合理を含むうえ、なによりも事故地点南側を通過して、前方にでたとするならば、前掲認定のような加害車の右前輪のみに顕著なルミノールおよびロイコ・マラカイトグリンの各反応があり、後輪にはルミノール反応類似のものがでるという著るしい差異を示す事態とならないはずで、前輪以外泥除けにも反応があつたとの事実より判断できる流血量よりして、後輪にも、量的な差はともかく、ロイコ・マラカイトグリンの反応が示されなければ、整合した説明をなしえないところであるから、この弁明によつて、訴外西村が本件事故を惹起せしめたものでないとすることはできない。

(ロ)  前認定の、加害車の事故直後の状況とくに検査結果、事故現場付近は顕著な高低差はなく、相当量の血液が事故地点より流出するとは考えられないこと、これらに、前掲訴外西村の事故後の挙動と、弁明の不合理性をあわせ考えると、本件事故は、訴外西村運転の加害車が、その右前輪で亡岩雄を轢過したことにより発生したものと認めることが、少なくとも、合理的な疑いをさしはさみえないところまで明白な段階に迄至らずとも、高度の蓋然性ある程度をもつて証明度は足りることが、当事者の証拠方法収集能力あるいは立証成功により相手方の負う不利益内容の差異からして、肯定できる、民事訴訟では、正当な結論ということになる。

以上のとおり、本件事故の不法行為者は訴外西村とみられるところ、被告は、原告の主張するところの、被告が自動車等の輸送を業とし、訴外多田野鉄工株式会社より加害車を高松市より東京都内迄いわゆる陸送することを請負い、従業員である訴外西村をしてこれに当らせ、加害車を輸送中であつたこと、従つて、本件事故時加害車を自己のため運行の用に供していたものであること、をなんら争わず、そして、免責の要件をなんら主張立証しないので、本件事故について、運行供用者として、事故後本件事故損害賠償義務の承認行為をなしたと否とにかかわりなく、相当の範囲の損害を賠償しなくてはならない。

しかしながら、前掲事故発生地点の地形ならびに被害車の状況によりすると、被害者である亡岩雄にも、歩車道の区別ある道路を、横断歩道・歩道橋によらず車道内に進出し、進行してくる車の動静に充分な注意を払わず、本件事故発生に寄与している過失を犯していることが少なくとも認められるので、賠償額の算定に当り、これを斟酌すべきである。

そして本件事故における被害者の右過失を斟酌すると、被告は原告らに対し相当の損害額のうち九〇%に当る金員を賠償すべきものと判断される。

二  (損害)

(一)  葬儀費

〔証拠略〕によると、原告源市、同藤枝、同ナツヱは亡岩雄の兄、姉、妹であり、その余の原告らは、亡岩雄の姉で、昭和三八年一一月五日死亡の亡長沢ツルヱの実子であるところ、亡岩雄が配偶者、子なく死亡し、両親も既に死去していたため、右原告らにおいて、事故時港湾労務者をしていた亡岩雄の葬儀をとり行ない、葬儀当日の諸費用のほか、通夜、初七日より四九日迄の諸忌日の法事費用のほか、葬儀挙行のため必要な遺体引取にともなう運搬、宿泊などに伴なう費用、さらに葬儀の際に自動車運転手に対し交付した謝礼など、として、合計金九万二、六四〇円の出費を、相続分に応じて負担せざるをえなくなつていること、が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。しかし、右出費のうち金九万円をこえる部分は、前認定の訴外人の社会的地位、原告らと訴外人の身分関係よりして、社会通念上考えられる訴外人の事故死に伴なう葬儀費用としては相当の範囲をこえるものとみざるをえず、従つて右部分は本件事故と相当因果関係をもつ損害とは認め難い。従つて葬儀費のうち金九万円が本件事故による損害とするのが相当である。

(二)  (逸失利益)

本件事故時亡岩雄が満四五才であつたことは当事者間に争いなく、次に〔証拠略〕によると、原告は、通例の健康を維持する男性で、本件事故当時訴外神港作業株式会社に日雇の契約形式で、港湾作業員として雇傭され、一カ月平均税控除後で金七万〇、八九五円の賃金を得ていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないところ、右認定事実と、前項認定の亡岩雄の身分関係、当事者間に争いない年令を綜合すると、亡岩雄は、本件事故がなければなお一五年間、月当り金七万〇、八九五円の収入をえつつ、その収入の六〇%を自己の生活のため消費するという生活を送つたものと判断でき、これが現在価額を月別ライプニツツ複式で算出すると、金三六一万二、三四五円(円未満五〇銭以上切上げ・以下同じ)となる。これが本件事故により亡岩雄が逸失した利益額である。

ところで前項認定の亡岩雄の身分関係よりすると、原告らは右訴外人の相続人の全部であり、原告源市、同藤枝、同ナミヱは兄、姉、妹として、その余の原告らは訴外亡長沢ツルヱを代襲しての相続人として、右亡岩雄の賠償請求権を相続分に応じ相続したことになる。被告は、逸失利益の相続は死者に扶養されていたものに限られる旨主張するけれども、現行法体系とは整合しないものであつて、現時これをとりえないことは多言を要しないので、右主張は採用できない。従つて原告源市、同藤枝、同ナミヱは右逸失利益の四分の一である金九〇万三、〇八六円ずつ、その余の原告らは二八分の一である金一二万九、〇一二円ずつの賠償請求権を取得したことになる。

三  (損害の填補等)

そうすると、原告源市、同藤枝、同ナミヱは、右金九〇万三、〇八六円に葬儀費負担分金二万二、五〇〇円を合算した金九二万五、五八六円ずつ、その余の原告らは右金一二万九、〇一二円に同じく葬儀費負担分金三、二一四円を合算の金一三万二、二二六円ずつ、の本件事故と相当因果関係をもつ損害を蒙つた地位に立つていることになるところ、既に認定の被害者の過失斟酌割合に従うと右金員の九〇%に当る金八三万三、〇二七円ならびに金一一万九、〇〇三円ずつを、原告らは、被告に対し賠償請求しうることになるわけである。

ところで、本件事故につき、原告らに自賠責保険金が総額で金三〇〇万円交付されたことは当事者間に争いなく、また〔証拠略〕によると、自賠責保険金三〇〇万は、原告らの各相続分に応じて、原告らの本件事故損害金のうち、遅延損害金以外の債権に受領充当されていることが認められ、右認定に反する証拠はなく、そして、亡岩雄の父母・配偶者・子のいずれでもなく、またこれと同視しうる事情の窺われない原告らについては、前掲各損害以外に本件事故により蒙つた損害の存することは認めるに足りる証拠もなく、またその主張もされていないから、右保険金を相続分に応じ按分した金七五万円および金一〇万七、一四三円ずつが、その限度で前示の金八三万三、〇二七円および金一一万九、〇〇三円ずつの債権をそれぞれ消滅させていることになるのである。

四  (弁護士費用)

以上のとおり、原告源市、同藤枝、同ナミヱは各金八万三、〇二七円ずつ、その余の原告らは各金一万一、八六〇円ずつ、およびこれに対する遅延損害金の支払を、被告に求めうるところ、〔証拠略〕によると、被告はその任意の支払をなさなかつたので、原告らはやむなく弁護士である原告訴訟代理人にその取立を委任し、弁護士会所定の報酬の範囲内で原告源市、同藤枝、同ナミヱは金二〇万円ずつを、その余の原告は金三万円ずつを、手数料および成功報酬として第一審判決言渡日に支払う旨約定していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと、原告らが被告に負担を求めうる弁護士費用相当分は、原告源市、同藤枝、同ナミヱにおいては各金一万円ずつ、その余の原告らにおいては各金五、〇〇〇円ずつの限度において相当であつて、これをこえる部分迄被告に負担を求めることはできない。

五  (結論)

そうすると、原告源市、同藤枝、同ナミヱは各金九万三、〇二七円ずつおよびこれより弁護士費用相当分を控除した金八万三、〇二七円ずつに対する、その余の原告らは各金一万六、八六〇円ずつおよびこれより弁護士費用相当分を控除した金一万一、八六〇円ずつに対する、一件記録上訴状送達の翌日であること明らかな昭和四五年五月一〇日より支払済み迄年五分の割合による民法所定遅延損金害の支払を被告に対し求めうるので、原告らの本訴各請求を右限度でそれぞれ認容し、その余は理由なく失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷川克)

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